オリジナルサイト日記
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”文学少女と慟哭の巡礼者”を読みました。
ひょんなきっかけから購入し始めてた文学少女シリーズですが、とうとう核心に置かれていた”美羽”の登場により、クライマックス級の盛り上がりを迎えたと思います。全作、”穢名の天使”は「ん~?」って感じだったのですが、今回はほんとうにゾクゾクしました。アマゾンの言うとおり、五つ星の名作。ライトノベルって舐められないなぁーと思わせる力量がすごい。
以下ネタバレ。
かつて、”井上ミウ”というペンネームを名乗り、少女作家として新人賞をとってしまったことから、当時あこがれていた美羽という少女を失ってしまった… というトラウマを負った井上心葉を中心にめぐる、自分の弱さも、他人の醜さも許せない、透明で硬く、もろい心を持つ少年少女の青春物語。
どの作品も古典の名作文学をテーマにおいているというのが、読書中毒としてはキュンとくるところ(笑) で、第一作の『”文学少女”と死にたがりの道化』以来、追いかけていたのですが、やっと物語が主人公である井上心葉くんにたどりついたというのに、ちょっと感慨深いものがあります。
このシリーズの登場人物は、みんな、心に後悔の傷をおった少年少女ばかり。で、彼らが自らの傷へと向き合い、己を嫌悪し、時に自己破壊の衝動に駆られ、でも、最終的には”文学少女”たる天野遠子のやさしい推理によって、なんとか、自分の立つべきところへと戻ってくる。……ってのが、一般的なプロットですね。
そして、このお話に出てくる少年少女の”傷”ってのが、なんか、いかにも思春期の少年少女らしい潔癖さによって、ガラスのような透明な輝きと、骨をも切るような鋭さを併せ持っているというのが、すごく魅力的。
私が一押しなのは、一巻で登場した竹田千愛ちゃん…… 『人間失格』の主人公になぞらえて語られた女の子です。
見た目はいかにもきゃぴきゃぴしていて、砂糖菓子みたいに愛らしくて小さく、なんにも悩みがないような風の千愛ちゃん。でも、彼女は『人間失格』を地で行く無感動さ、冷淡さに侵された心の持ち主で、本当は誰のことも愛せないし、人と同じように喜んだり哀しんだりできない自分に、身を切るような痛みを感じている。
一巻で、かろうじて”生きる”という結論を出した千愛ちゃんですが、彼女の痛みは癒えてはいない。主人公である心葉や、遠子先輩をはじめとして、自分のことを大切にしてくれる人々との出会いを得ることができても、まだ、彼ら彼女らを”愛する”ことができない自分を心から厭う気持ちに苦しめられている。
そんな千愛ちゃんが、今回、とても重要な役割を果たします。
心に欠落を負った人間が、その欠落を埋める、あるいはそれを受け入れるのは、簡単なことじゃない。それを忠実に描いてくれるあたり、この作品シリーズは大好きです。
今回のヒロイン、朝倉美羽のキャラクター造形も、見事でした。こりゃあ千愛ちゃんと並ぶいいヤンデレヒロイン……(笑
主人公である心葉への独占欲と嫉妬、破壊願望と、痛いほどの憧憬。すべてが交じり合い、世の中の良識もなにもかもをすべて振り捨て、まるで魔女のように振舞う美羽の振る舞いは、中盤まで読んでいて、「ほんとにこれって無事に落ちるのか!?」というドッキドキを感じさせましたが、ラストにいたって”文学少女”があらわれたとき、物語はほのかな希望とともに結末を迎えます。
欠けたまま病んだまま、足りないまま傷ついたまま、それでも、生きていこう、という結論へとたどりつく不器用で純粋な少年少女たちは、とても愛しい。作中で書かれる絶望と瑕が深ければ深いほど、最後にほのかに差し込む希望の光の美しさが映える作品だと思います。
しかし、今回のラストの一文は、また、爆弾だよなぁー。
話が進むにつれ、日常におけるかわいらしいドジっぷり、子どもっぽさなんかを通り過ぎて、まるで、「この人は本当は人間じゃないじゃないか?」という風にすら見えてきた”文学少女”こと天野遠子先輩。
彼女の正体って、いったい、なんなんだろう……
次が最終巻かなー。番外編がはさまるとか書いてあったから、もしかしたら、短編集とかも出るかもしれないけれども。
でも、これは真面目にいい小説ですよ。すべての文学ファン、そして、青春小説ファンの方々に、オススメです。
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