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小児精神病をわずらっていた風変わりな妹、サビーヌ。
その27歳までの妖精のように美しい姿と、五年間の入院を経て変わり果てた姿の双方を、姉であるサンドリーヌのカメラで、淡々と描いたドキュメンタリー映画。

私には、重度心身障害者の叔父がいたそうです。私は叔父のことを、名前も満足に思い出せないくらいしか知らないけれども。
歳の離れた母の弟で、生まれつきの脳障害で生涯寝たきりだったとか。私が生まれる前に亡くなった叔父は生涯祖母の介護を受けており、少なくとも母のいう限りにおいては『一生赤ちゃんみたいだった』とのこと。
私は叔父の写真を一枚見たことがあるだけだし、叔父の話について母が語ることは殆どありません。
祖母の口から叔父についての話を聞いたこともないし…
どんな人だったのかとても知りたいけれど、母や祖母の『無言』があまりに分厚い。祖父は亡くなっており、もう独りの叔父とはずっと会っていません。だから私は、亡くなった下の叔父がどんな人だったのか、知ることもできないのです。

この映画をみながら、なんとなく、そんなことを思い出していました。

自閉症のサビーヌの現在は、とても痛々しいものです。
不器用で、極端に肥満し、表情にはしまりがない。よだれをたらし、奇声を上げ、唐突に誰かに殴りかかる。
「サンドリーヌ、明日も来るの?」という問いかけは、この作中で何回繰り返されたか… 38歳のサビーヌの人格は決定的に損なわれている。
逆に、映像に残された若い頃のサビーヌは、まるで妖精のように美しい。
症状の一環なのか、無口であまり笑わず、カメラのほうをじっと見つめるひとみの黒さが逆に美しい。
私は監督のことを知らないのですが、女優になるような姉がいるくらいだから、サビーヌが美しいのは当たり前なんでしょう。
すこし開いた口元と、こちらを見つめる瞳。あまり笑わないから逆に時折見せる笑顔がはっとするほど印象的に見える。
若き日のサビーヌの映像は、所謂ホームビデオの類なんでしょうね。もともと映画に使用なんて思ってなかったんだと思う。だからサビーヌはとても無防備で、なんの飾り気もない姿で映っている。私がいままで、映画という枠の中では見たことのなかった、不思議な美少女がそこにいました。
クロスするように繰り返される、現在のサビーヌと、若き日のサビーヌの映像。
次第に、現在のサビーヌの中に嘗ての姿の名残を見つけられるようになってくる。肥満して、薬の作用で弛緩した表情をした現在のサビーヌも、ふとした瞬間に、妖精めいたかつての美少女の面影を見せる。
もし、サビーヌがあのまま、奇妙だけれど幸福な少女のまま人生を送っていたら、今、どんな姿になっていたのでしょうか。そんなことを思わずにはいられない。もし適切なケアと支援が存在し、サビーヌが精神病院での五年間によって人格を決定的に破壊されないでいることが出来たら。
今のこの38歳のサビーヌですら、ときおりハッとするほどに美しい横顔を見せる。けれどこれは物語ではない。サビーヌ本人の苦痛と、家族の心痛はどれほどのものなのか。

途中、モノローグの形で語られるフランスの現在の精神医療の現場についても、いろいろと考えさせられるものがありました。
20歳以上の自閉症者を受け入れる施設が足りないということ、サビーヌが『自閉症』の診断を受けたのはなんと今の施設に五年前に入ってからだということ、つまりサビーヌの『自閉症』はまったく放置されたままで数十年がすぎていたということ。
現在サビーヌが入所している施設は、ちょっと普通では考えられないくらいに充実した場所に思えます。専門のスタッフがおり、入所者の人数は10人以下。フルタイムでの支援が行われ、入所者にはそれぞれ私物が持ち込める個室があたえられている。作中ではチラッと触れられただけなんですが、監督はここを設立するための支援にかなり駆け回ったそうです。こういう、充実したケアを受けられる場所ってのは、そうそう簡単には見つからない…

もう独り、この作品では非常に印象的な登場人物がいます。
サビーヌと同じ施設に入所している脳障害の男性、オリビエです。
彼はてんかん・脳障害・自閉症とさまざまな症状を併発しており、非常に強い薬を用いている。途中でオリビエの母親のインタビューがあるのですが、間違って息子の抗てんかん薬を服用してしまったときの話にはぞっとするような生々しさがあります。
てんかん発作での転倒を起こすため、いつも青いヘッドギアを装着しているオリビエ。
ですが、彼はサビーヌと比べると、非常におっとりとして穏やかな印象を受ける人物です。息子の将来を思って苦痛の表情を見せる母親の隣で、にこにこしながら話を聞いているオリビエとのショットは非常に印象的です。
たぶん、彼は子どもの頃から、両親によって適切なケアを与えられて… 完全に適切じゃないにしても、できるかぎり適切な… 育ってきたんだろうなぁ。今もこんな高そうな施設で暮らしているし。
オリビエは自立できているようには見えないし、たぶん今後も無理なんじゃないか、と思うくらいには重い障害を抱えているように見える。
でもしかし、オリビエは自分の個性をちゃんと持ち、日々をそれなりに充実して暮らしている一人の人間でもある。
視界に姉がいるかぎり、不安げにその名を呼び続けるサビーヌとは、非常に対照的だと思われました。

サンドリーヌ、サンドリーヌ、という哀しげな呼び声が、まるで通低音のように聞こえてくるこの作品…
サビーヌはこれからどうなるんだろう。
あの妖精のような目の美少女の姿は、サビーヌの上に戻ってくるんだろうか。

*******

うちの最寄り駅では一時期、成人の障害者の人たちの姿を頻繁に見ていたことがありました。
たぶん近所に施設か何かがあったんだろうな。付き添いの人と一緒に駅を歩いている彼らは、でも、そうやって徒歩と電車で通勤できるくらいには健康な人たちではあったのです。
いつか、駅のエレベーターに乗ったとき、たぶん知的障害者だろう女の人に、「何階で降りますか?」と声をかけられたことがあります。
ほんの1分にも満たない時間でしたが、エレベーターのボタンを押してもらい、以前テレビに出演したときのものだという写真を見せてもらいました。親切で人懐っこい人でした。同行してるケアスタッフの人はちょっと落ち着かない様子でしたが、私はうれしかったよ。

知的障害者、精神障害者にも、いい人も、悪い人もいるんだと思う。
悪い人だったら遠くで暮らしたいとは思いますが、それは健常者だって同じこと。いい人だったらぜひ隣人として付き合いたいし、ああいう人たち独特の個性ってものは、一緒に暮らす人の世界観を広げてくれると思う。

ああいう人たちは、もっとたくさん世の中に出てきていてもいいはずなんだ。
私は少なくとも、母や祖母が、私に対して『叔父のことをほとんど話せない』というような状況は、変わってしかるべきだと思います。

見知らぬ隣人についての考察を深める名作でした。

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最近映画のレビューしか書いてないこのブログ。こんばんは。(挨拶)
途中まで書いていたレビューが消えてしまったので、泣きながら書き直します。ちくしょうキーボード爆発しろ。

最近は映画レビュー本とかを読んで興味を持った作品しか借りてないんで、ガッカリ率が下がっているのがいい感じです。今回借りてきたやつはけっこうどれも面白かったなぁ… 特に『小さな悪の華』は傑作です。ポスターほしい。

『女囚701号さそり』:超有名作品”女囚さそり”シリーズの一作目。映像のアヴァンギャルドさもさることながら、ものすごく暴力的にストレートに反体勢を主張してるところが気持ちいい感じの雰囲気を作っていた。個人的には芽衣子姉さんのカッコよさとは正反対の部分でツボったところが。【アバレ】の結果捕虜に取られた若い看守たちが女囚に剥かれて逆レイプされるシーン… あれでヘンなものに目覚めた男性は多いだろうなぁと思いました。

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