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『MAY/メイ』 2002年 

以前から評判を聞いて、ずーっと見たいと思っていたのをようやく鑑賞しましたよ。ホラー映画… というか、殺人鬼映画というべきか。でも、人殺しではあってもあまりに哀しいつぎはぎだらけのメイ、フランケンシュタインのかわいそうな妹のお話。

これは、メイ、という名前の、ひとりぼっちの女の子のお話。
メイはエキセントリックな雰囲気をかもし出す、たぶん、20代前半くらいの女の子です。動物病院に勤務し、それなりに優秀な助手を務めていますが、ひとりぐらしで友だちはひとりもいない。家の中はお人形だらけ、趣味の裁縫の腕は相当なものですが、作る服はつぎはぎはフリルが多くてどことなく浮世離れした印象をあたえます。
でも、メイがエキセントリックなのも、友だち作りが下手なのにも、理由がありました。子どものころ、弱視が原因の斜視を矯正するために黒い眼帯をつけていたメイは、生来の引っ込み思案な性格もあって、まわりからは「変な子」と呼ばれて敬遠されてきていました。そうして、お母さんからは古い人形を《お友だち》としてプレゼントしてもらったけれど、ガラスのケースから出すことは許されず、結局、メイは誰かに頬をなでてもらうことも、みつめてもらうこともできないまま、人付き合いのへたくそなままで大人になってしまったのです。

「人間は誰だって完璧じゃない。最初はすばらしい人だと思っても、だんだん欠点が見えてきて、最後には大嫌いになってしまうことまである」

そんな風に思っていたメイにも、けれど、遅い初恋が訪れます… うつくしい手を持った青年と出会ったメイは、彼に恋をします。あの手に頬を撫でてもらいたい、触ってもらいたい、という気持ちからだんだん彼に惹かれていったメイですが、誰かに《触れて》もらったことのないメイの不器用でエキセントリックな振る舞いは、しだいに、メイ自身をゆっくりと、哀しくて残酷な場所へと連れていってしまいます…

登場人物はごくごく少数。メイが恋をした青年アダムや、レズビアンでメイに興味を抱いている動物病院の事務員の女の子、盲学校のかたくなな少女くらいでしょうか。お話は、ちっぽけなメイの世界がゆっくりと崩壊して行く様を残酷なほどにゆっくりと前半で描き出し、それから、後半のなんだかおとぎ話めいたホラーシーンへの布石とします。
コインランドリーとか、動物病院とか、メイの暮らしてる古いアパートとか、ちょっとおもちゃみたいなデザインの歩行者信号のある交差点とか、なんだか道具立てがいちいち小川洋子好みというか(笑) 
メイ自身は、正直、私も最初映画を見ていて、「いくらなんでもそりゃまずいって!」といちいちつっこみたくなるようなエキセントリックな女の子です。ちょっと変わってるの域をあきらかに飛び越えとる…
好きになった人の気を引くためにセクシーなしぐさを研究し、ノーブラで彼の通ってる喫茶店に行ってみたり、彼と仲良くなったのはいいものの、キスの方法が分からずに勢いあまって突き飛ばしてしまったり。レズビアンの女の子はそんなメイを不器用で滑稽な動物でも見るみたいにかわいがりますが、でも、所詮それだけ。メイと違ってたくさんの友達をもっている彼らは、最終的に、メイのことを残酷な方法で裏切ってしまいます。というよりも、メイの求めてるものは、彼らがメイに期待していたもの、メイに差し出せたものとあんまりに違いすぎていたのかな…

そして、いちいち意味深に出てくるのが、メイのママがプレゼントしてくれた古い人形です。
「ママが最初に作ったの」といってるってことは、メイのママは何か造形関係の仕事でもしてたのか? と思うんですが、この人形がまた絶妙に可愛くねぇ…
でも、事件はメイが好きになった人をはじめて家に呼んだ日、彼が作った不気味な映画をまねて、彼の唇を噛み破ってしまい、関係が大失敗を遂げてしまった日を発端にしてる気がします。メイは怒りのあまり人形のガラスケースを叩き、ケースのガラスにひびを入れてしまいます。
そして、それ以降、メイが次々と周りとの関係作りに失敗して行くたびに、ガラスケースのガラスが、意味ありげに音を立ててひび割れて行く…
ものすごく露骨に考えると、あのガラスケースの人形は、「メイ自身」の暗喩だったんだと思うんですけれども。ガラスのケースに入れられて、外のものには何一つとして触れない女の子。
メイに眼帯をつけたとき、メイのママは、「あなたの容姿を完璧にしてあげる」というようなことを言ってます… そして、プレゼントの人形の包装紙を上手に敗れなかったときには露骨に機嫌を損ねていた。きっとあの母親との関係がメイの人格作りに影響を与えていた、ってことを監督は言いたかったんでしょうねえ。
最終的には、メイのママは冒頭に出てくるだけで、作中にはいっさい登場しないんですが、ガラスケースの人形を通して放たれるその存在感は強烈です。

前半部分で強調されたメイの「異常さ」と、中盤からじわじわと染みてくる「メイはどうがんばってもこれ以外の振る舞いがわからない」ということのコレでもかという強調が、ボディブローのように利きますわ…
誰かと仲良くしたくったってその方法が分からないし、頑張って一生懸命勉強してみても、結果はどこまでも的外れ。かろうじてメイと絆を持ちかけたように見えるのは盲学校のかたくなな少女だけですが、彼女との関係にしたって、メイは上手に信頼と絆を構築しそこなっておわります。

この作品は外向きの説明だと「友達のいない女の子が、【完璧な友だち】を作ろうとする」という部分をクローズアップされてましたが、実際にメイがほしがってたのは、「私を見てくれる、そして、頬を撫でてくれる友だち」という、あんまりにもありふれすぎた願いだった、っていうことが、最後の最後で明かされます。
ネタバレになるからアレですが、メイがとうとう殺人に走ってから後、さらに彼女が【友だち】を作り上げてからラストまでの数分がむちゃくちゃに切なくて、美しくて、よかったです。ラスト思わず軽く泣きました。むちゃくちゃ切ない…
つぎはぎだらけの心だったメイ、なにからなにまでめちゃくちゃのでたらめで、何一つとして上手くやりとげることのできなかったメイ、でも、「一生懸命がんばった、でも、だめだった」という部分がすごく心に染み入ります。作中で何回もメイにむかって放たれる、「Freak(変なコ・異常だよ)」という言葉がすごく意味深に思えてきます。フリーク… 原義だと、「異形」って意味になっちゃいます。
でも、実際メイは、そうだったんじゃないかなあ。
メイがミシンに向かうシーンが何度も作中で出てきて、印象的に使われてたのに、なんとなく「バットマン・リターンズ」のキャットウーマンを思い出しました。あれもさえなくて地味で何もかもがうまくいかなかった女の子が、一度死んでよみがえり、そして、一心不乱にミシンに向かって自分のコスチュームを縫い上げる(そして、それを纏うことによってキャットウーマンとして再生する)っていうシーンが印象的でした。
ティム・バートンの「バットマン」シリーズの世界はフリークスのためのワンダーランドですから、キャットウーマンは復讐者として再生し、美しくも哀しい活躍を見せることができたわけですが、でも、この映画の世界だと、メイが手に入れられた《魔法》の代償はあまりに大きすぎました。
でも、メイが《魔法》を手に入れる瞬間の光景は、優しくて、哀しくて、そして、残酷なリリカルさに満ちています…
「化け物(フリーク)」である女の子が、空気も水もあわない人間の世界で必死に生きてきて、そして最後にようやく本来の居場所である残酷なおとぎ話の世界へと帰還を果たすことができる。これはそういうお話だったのだなあ、となんとなく思いました。ラストシーンよりも先のお話ってあるのかな… そこから先はきっとこの監督の関知するところじゃないんでしょうが、メイが、暗くてゆがんだおとぎ話の世界で、今度こそ、やさしい友だちと一緒に、幸福に暮らせることを願うばかりです。

―――そんで特筆事項として、メイの着てる服がむちゃくちゃに可愛いのな!!(笑
人形だらけの家のインテリアもまたサイコーに可愛いし、どっかのガイド本に「アメリカン・ガーリー・ムービーとしてもオススメ」と書いてあったのが納得です。
メイは裁縫が趣味で、やぼったい青りんご色のうわっぱりをきているとき以外は自作らしい服を着ていることが多いんですが、ジョーゼットを多用したつぎはぎのデザインが最高可愛いぜえ…
特にメイが初デートのために準備した、衿から胸部分がレースになったばら色のワンピースと、ポスターとかにも使われてたお人形の服に模したドレスがむちゃくちゃ可愛いです。どっちもゴスな魅力に溢れていて最高! ガーリーだけどゴス。日本のいわゆる”ゴスロリ”とはぜんぜん違う文脈のデザインなんですけれども、私はマジで欲しいと思いました(笑 あれは合皮なのかなあサテンなのかなあ、赤紫色のアンシンメトリーのドレス… 細いボディスにふくらませたスカート… うがあああ萌え!!
最近海外の映画をちょこちょこ見てるんですが、向こうのファッションコーディネーターの人がよっぽど優秀なのか、「野暮ったくて、ガリガリに痩せていて、ちょっと浮世離れした女の子」の服装に胸がキュンキュンしまくることが多いです。実際、今の私の髪型は、「17歳のカルテ」のパクりですしね!(笑

映画って服の教科書になりそうだわあ…
でも、女優さんとは顔が違うからぜんぜん役に立たないか? 難しいです。

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